秘密にしなきゃいけない理由はこれだけだ。

こいつが,男だからじゃない。

俺がこいつに主導権を握られている,その関係は,絶対に知られてはいけないのだ。

焦って周りを見渡すも,ひっそりとしたこの場所では誰もいない。

生憎,唯一目撃でそうな社員も,出てきては居なかった。



「あつ,もっかいしよっか?」

「は? ふざけんな。なんで……」



俺が望んでるみたいにこいつは。



「あはは,だから可愛いって言ったでしょ? 自覚無いの? 顔,ちょー赤いけど」



碧の言葉に振り返った隙をついて,碧はまた唇を重ねる。

今度は首に巻き付いたまま,直ぐには離れない。



「ほんと,素直じゃないよね」

 

俺から漏れ出た空気で呼吸するように,至近距離で碧は言う。

その唇が動く度に,また少し触れた。

グッと強く押し付けられ,割られる。

ぬるんと短い舌が侵入して……



「あれ……水野さん? 何してるんですかそんなところ,で?? あ,すみません人が…… ?」

「……な,んでもない。知り合いに絡まれてただけだ」