『水野,篤』
『じゃあ,あつだね』
くすくすと気に入ったように笑う寄井。
俺は
『ふざけんな,おま……寄井』
状況を打開しようと動き出した。
グッとそいつの腹を押す。
違和感に,パッと手を離した。
『寄井じゃない。あお』
『あ……お,どけ』
混乱のまま,初めて名前を呼ぶ。
この時からだった。
こいつを,そう呼ぶようになったのは。
俺の触れたビクともしなかった場所。
硬かったそこが,蒼の笑いに引っ張られて揺れる。
『驚いた?』
蒼は手早く半裸になった。
服の下に隠された,筋肉のついた白い肌。
両腕を頭上で痛いほど強く拘束される。
咄嗟に急所を蹴り上げようとした俺の足は体重をかけられ,簡単に動かなくなった。
『シンプルな力だけじゃなくて……俺,寝技も得意なんだっ。だから…諦めてね』
どんな悪党よりも危険な笑みを,蒼は軽々と浮かべた。
あぁそうか。
どうしたって俺は……こいつにとって。
俺の思考を理解したように,蒼はまた俺を見下ろす。
『ざーんねん。俺の方だよ。別に,女の子でもいいんだけどね? ギャップで驚いちゃうみたい。一々めんどくさいし。だからもう……君でいいや』
そして俺の身体は……
こいつに貸すことに……預けることに……
いや,奪われる事となったのだ。
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