「急に立ち寄るなどと知っていれば土産の一つも準備したものを。急すぎて何も準備出来なかった」

 アデルモは、急だろうと十年前から知らせていようと準備などする気もないのに平気で嘘を言うのね。

「手ぶらで返すのも気がひける。そうだ。わが国を守る聖女を一人やろう。二人いる内の守護力の強い方だ。なあに、わが国は力の弱い方でもなんら問題はない。おいっ、ナオ!挨拶をしないか」

 突然呼ばれ、まだ心の準備が出来ていないので頭の中が真っ白になってしまった。

 前にいる廷臣たちにぶつかりつつ、暗がりから前に出た。

 まだ距離はあるけれど、竜帝のあまりの背の高さと威圧感に気圧されてしまった。だから、やっとのことでドレスの裾を上げて挨拶をした。

「陛下、ナオ・バトーニでございます」

 声が震えていた。

「不要だ」

 直後、竜帝がつぶやくように言った。