「わたしもあなたとおなじように、どちらにしても面倒くさいことになるわねって思うの。だから、わたしも行くわ。彼女は、今日のことでわたしをとことん邪険にするつもりでしょう。だから、何をされても気にしないわって虚勢をはっておくことにする」
「あなたって、ほんとうに聖女だったの?」

 エルマは、心底可笑しそうにクスクス笑っている。

「そうね。自分でも疑ってしまうわ」

 だから、わたしも笑ってしまった。

「冗談はさておき、ナオ。あなたって、ほんとうに強いわ。聖女とかは関係なくね」

 彼女がそう言ったとき、馬車が停止した。

「そんなことはないわ。わたしは、周囲の言いなりでしか生きてこれなかったから。そうしないといけなかったの」
「ナオ……」

 そのタイミングで、馬車の扉が開いた。

 グレーのジャケットに包まれた腕が、差し伸べられた。