「だけど、聖女が乗馬というのは意外だな。あっ、すまない。いまのは偏見だな。たいていの貴族令嬢は乗馬をたしなんでいるから、聖女だからって乗馬をしないってことはないはずだ」
「いえ、いいのです。おっしゃりたいことはわかります。わたしにとって、乗馬は読書同様慰めなのです」

 こんな個人的なこと、フランコはきいても面白くないはず。だけど、きいてもらいたかった。

「とくにルーポは、唯一の親友です。いいえ。兄であり、弟みたいなものです。ですから、彼がいなかったら、彼に出会わなかったらと思うとゾッとします」

 自分で自分の身を抱きしめていた。

「ブルルルル」

 ルーポが鼻を鳴らした。
 彼は、勘がいいから自分のことを言われているとわかっているのね。

 こちらに駆けて来て、馬場の柵越しにわたしの右頬に鼻を押し付けてきた。

 わたしが傷ついたり落ち込んだりしていると、いつもこうして鼻を押し付けてくれるのである。

 わたしが彼の鼻のフニフニが大好きなことを、よく知っているから。