「実際に、愚策を弄してきた連中がいるんです。聖女とか修道女とか偽ってね」

 隣に座っているカストの説明で、なるほどと納得した。

 それにしたって、このわたしが暗殺者?

 フランコの首を斬る云々は別にして、そんな度胸や勇気があるわけがない。逆に、度胸や勇気がほしいものだわ。

「もちろん、すぐにそんなことはないと思ったよ。きみは、庭のバラにくっついている害虫ですら殺すのを躊躇うだろう?」

 フランコの美貌にやわらかい笑みが浮かんでいる。

「わかるんだ。おれには、相手の心の中をのぞくことが出来る。もっとも、すべてというわけじゃないがね」
「だからですね?いま、小さな虫を殺せないって心の中で思っていましたから」
「いや、それは違う。きみの心をのぞいたのではない。あの、なんだったかな?」
「兄上。アロイージ王国の国王の名は、ブラマーニです」
「カスト、それは初耳だ。そうかブラマーニという名か。まあ、なんでもいい。とにかく、あのときにブラマーニの心の中をのぞいた。ナオ。きみが虫を殺せないと思ったのは、こうしてきみと話をしてそう直感しただけだ。さっきも言ったが、すべての人の心の中をのぞけるわけではない。のぞけない人もいるし、のぞけても一部分しか読み取れない人もいる。それに、いつものぞくわけではない。そんなことをしていたら、わたし自身の心が病んでしまうからね」