あのとき、本来なら王都外で待機していたバリオーニ帝国軍が王都に攻め入ってもおかしくなかった。

 だけど、フランコはそうはしなかった。

 これは、アロイージ王族にとっても王国にとっても幸運以外のなにものでもない。

「ナオ、きみが謝罪する必要はない。さあ、飲んで。冷めてしまっているがね」

 紅茶を勧められるままに一口飲んでみた。

 ジャスミン……。

 気分が落ち着く。

「彼は、きみに寝首を掻かせるつもりだと思ったんだ。聖女と言えば、おれが油断するだろう。そこで、きみが……」

 ローテーブルをはさんだ向かい側で、フランコは手刀で自分の首を斬る仕草をした。

「まさか、わたしが?わたしが陛下の首を?」

 小さな虫を殺すのもためらうわたしが、フランコの寝首をかくですって?

 まったく想像がつかないわ。

 わがことながら驚いてしまう。