「公爵令嬢、そのようなことはおっしゃらないでください。人間は、この世に生まれたからにはだれしも必要とされているのです。不要な人間なんてだれ一人いやしません。もっとも、クズは存在しますが。そんなクズも、クズなりに必要とされているのです。ほら、目的の部屋は目の前です」

 彼の言葉で胸がチクリとした。

 わたしは、不要な人間などではない。

 それがたとえ社交辞令だったとしても、そんなことを言ってもらえたのははじめてである。だから、正直に言うとうれしかった。

 伏せていた目を上げると、目の前に大きな扉がある。重厚そうなその大扉は、廊下の一番奥にあたる。

 ということは、皇帝の居室かしら?

 その証拠に、大扉の左右に衛兵が立っている。

 彼らもまた、カストに最敬礼をした。