「役立たず聖女」だからと捨てられた私を拾って溺愛し大切にしてくれたのは、大国の冷酷非情な竜帝でした~真の聖女の加護の力が失われたと気がついても手遅れですし、助けるつもりはありません~

 彼の唇がわたしのそれに触れるだろうか、とドキドキしながら待っている。

「うわっ、押すなよ」
「キャッ!」

 その瞬間、叫び声とドサッという音がしたものだから、飛び上がってしまった。

 フランコとともにそちらを見ると、書斎の扉が開いていてエルマとカストが重なるようにして倒れている。

「もうっ! せっかくの見せ場だったのに。あなたがしっかり支えないからよ」
「きみが押したり乗ったりしてくるからだろう?まったく、重いったら」
「なんですって、カストッ!」

 どうやら、二人でのぞき見をしようとしていたみたい。

「まったくもう。仕方がない。続きは帰国してからだな」
「え?なんとおっしゃいました?」

 フランコがつぶやいたけど、エルマとカストの言い合いできこえなかった。

「いや、なんでもない。では、行ってくる」

 
 口づけは、お預けね。

 わたしったら、一応元聖女なのにはしたないわね。

 でも、いいわよね。これくらい望んでも。

「役立たず聖女」なんだし。


                                 (了)