「公爵令嬢、すごく腹が立ちました」

 カストは、可愛い顔をパッと上げた。

 手綱をギュッと握りしめている。

「玉座に駆け寄り、傲慢きわまりないクソッたれ、失礼しました。とにかく、国王をぶん殴ってやりたかったです」

 可愛い顔は、先程とおなじように真っ赤になっている。

 だけど、今度のそれは怒りによるもの。

「ぼくだけでなく、部下たちもおなじ気持ちです」

 彼は、また気恥ずかし気にうつむいた。

「申し訳ありません。これだけは伝えておきたくて……」

 そして、彼はもう何もしゃべらなかった。

 涙が出てきた。

 他国の人で事情を何も知らず、当然わたしのことも何も知らない。何も知らないはずのに、わたしの為に怒ってくれている。

 いわれのない理不尽な出来事に、怒りをあらわにしてくれている。

 それがうれしかった。