「今宵は存分に楽しんでください」

 宰相がしめると、楽団の演奏が再開された。

 参加者は、思い思いに散って行った。

 わたしの焦りは、まったくの杞憂に終わった。

 はたして何人の人が、この舞踏会の趣旨を知っているのかしら。

 わたしという存在を知っているのかしら。

 ホッとした半面、宰相やジルド皇子の専横ぶりを危惧してしまう。

 あっ、わたしが危惧しても仕方がないわよね。

 苦笑せずにはいられない。

「くだらない茶番が終わったところで、美味しい料理やスイーツを制覇しに行きましょうよ」

 エルマがわたしの手をひっぱった。

 料理やスイーツが並んでいる長テーブルに向かう。

 舞踏会とはいえ、いまはまだ踊っているカップルは多くない。

 ほとんどの人が、お酒を飲みつつ談笑している。

 ボルディーガ侯爵と侯爵夫人も、どこかの貴族夫妻に声をかけられ、話をはじめた。

 これ以上、わたしに付き合わせるわけにはいかないわよね。

 だから、エルマに引っ張られるに任せた。