さすがよ、エルマ。

 彼女に感謝せずにいられない。

「お集りの皆さん」

 そのとき、大広間の中央部に一人の男性が現れた。

「あれが、「頭残念」の宰相よ」
「エルマ、声が大きいわ。失礼よ」
「あっ、ごめんなさーい」

 いまのは、ささやかれたのではない。ふつうの声の大きさだった。すぐに侯爵夫人がたしなめだけど、あまり真剣な感じではなかった。エルマは侯爵夫人に対してペロリと舌をだしつつ謝ったけど、全然「ごめんなさい」って感じじゃなかった。

 だけど、たしかに宰相は「頭残念」ね。

 宰相の頭は薄い。全体的に薄い。男性にしては背が低く、お腹まわりも残念だわ。タキシードのボタンがいまにも飛んでしまいそうなほど。だけど、人間(ひと)は外見じゃない。

 内面よ。

 心からそう思う。いえ、願っている。

 宰相(かれ)は、さっそく口上を述べはじめた。

 あっ、声はとてもいいわね。惚れ惚れしてしまう。

 彼の名は、ファウスト・ガンドルフィらしい。