「エルマ、せっかくのお化粧が取れてしまうわ」

 どう取り繕っていいかわからない。だから、そんなことしか言えなかった。

「その、わたしが悪いのよ。なにせ「役立たず聖女」だから」

 狼狽えすぎている。自分でもなにを言っているかわからない。

 その瞬間、侯爵夫人に抱きしめられた。

 森林の中にいるような控えめな香りが鼻腔をくすぐる。

 気持ちが落ち着くにおいだわ。

 侯爵夫人は、わたしをしばらくの間ギュッと抱きしめてから解放してくれた。

 とくに言葉はない。

 もちろん、わたしも。どんな言葉を発していいかわからない。

「アーダ、フィオナ。ナオが風邪をひいてしまう前にドレスを着せてあげて」

 侯爵夫人は、何事もなかったかのように言った。

 すぐに支度が再開された。