タクシーに乗ったときには愛想の良さそうな人だと思ったけれど、行き先を告げた瞬間人が変わってしまったようだった。


妙な空気を感じながら30分ほど車を走らせた後、タクシーは山の中腹あたりで停止した。


周りにはなにもなく夏だというのに気温が随分と低くて寒々しい。


「車はここまでしか行けないんだ」


そう言われて前方を確認すると、たしかに車両立ち入り禁止と書かれた看板が出ていた。


「ミチ村まではもうすぐなんですか?」


智香の質問に運転手は「歩いたら30分くらいだ」と、ぶっきらぼうに返事をした。


まるで早くふたりをおろしたがっているようにも感じられる。


「ここから先は一本道だから迷子にはならないはずだよ」


それでも料金をちゃんと支払うと道のりだけは教えてくれた。


「ありがとうございました」


そう言って下車した裕貴へ向けて運転手が視線を向けた。


「本当にあの村に行くのか?」


「え? あぁ、はい」


「そうか……」


運転手はまだなにか言いたそうにしていたが、グッと我慢するように前を向いた。


そのままドアを閉めて、Uターンを始める。