オフクロサマ

安喜くんはそう言うと手にしていたタッパーを扉の隙間から差し入れてきた。


中には不格好で小さなおにぎりがいつくも入っている。


安喜くんが必死になって作ってくれた様子が目に浮かんだ。


「こっちはお茶だよ」


更にペットボトルを2本受け取り、ふたりはそれをすぐに喉の奥へと流し込んだ。


冷たいお茶が体中に染み渡っていき、智香は泣きそうになってしまった。


こんなにも飲み物や食べ物に感謝したことは今まで一度もない。


「ありがとう、生き返ったよ」


「うん。でもすぐにこの村を出たほうがいいよ」


安喜くんがおずおずと言う。


さっきから周りに誰もいないことを何度も確認しているから、安喜くん自身もこんなところをみつかったら危険なのだろう。


それでも、こうして自分たちのことを気にしてやってきてくれたのだ。


智香は胸の奥がジンジンと熱くなった。


「そうしたいんだけど、できないんだ」


裕貴に言葉に「どうして?」と、泣きそうな声になっている。


「実は、東京の友達がふたり死んだんだ」


今まで黙っていたことを知り、安喜くんが息を飲んだ。