彼に王者の器があったならば、その程度笑って済ませただろうし……そもそも、無理に理由を作って婚約を破棄するなどという事も無かっただろう。なぜ第一子がこのお方なのだと、私は頭痛のする思いで扉を叩く。
 
『入れ!』

 居丈高な怒声に耳を塞ぎながら、私は扉を開き、跪いて丁重に頭を下げた。

「失礼いたします……おや? 太子、本日は御機嫌が優れぬ様子でございますな。何かございましたか?」
「ルビディルよ、お前にやってもらいたいことがあるのだ……。先日の生誕記念パーティーで、私はある男にとんでもない恥をかかされたのだッ……この王太子である私がこともあろうに生誕記念の場でだぞ!?」
「それは、お辛うございましたな……気分を害されるのも無理はありませぬ」

 あなた様が侯爵令嬢をこき下ろすような真似をしたからでは……と言う言葉を飲み込みつつ、私は沈痛な面持ちで同調する。

 すると王太子は味方が現われて気分を良くしたのか、顔にあくどい笑みを浮かべて私に意見を求める。

「おお、わかってくれるかルビディルよ! あのような、多少顔が小綺麗なだけの凡夫が……次期国王たる私に口答えするなど許されてたまるものか! こんなことがあっては、王家の権威に傷がつく、是非とも奴には制裁を与えてやらねばならん! 何か案は無いか?」