『くそっ……なにが銀竜公爵だっ! 王太子である私にあのような口を聞いて!』
『全くですわ……少し美形だからと言って調子に乗って、私を寝取り女などと侮辱して……』
『放せ! 今はそんな気分ではない……!』
『あん……つれないお方』
『クソッ……何かないか、あいつを痛い目にあわせる方法は……』

 王太子の私室前廊下で耳を澄ませていると、彼の機嫌がよろしく無いのは嫌でも伝わって来た。

 私はルビディル・クルーザ。このリーベルト王国の宰相を務めている者だ。

 どうやらカシウス王太子は未だひどく憤慨していらっしゃる様子。
 婚約者であるサンドラ嬢の声も聞かれるが、彼女が傍にいてもその苛立ちは抑えきれないらしい。

 配下の者から生誕記念パーティーでのことのあらましは聞いている。
 王太子と言えど、さすがにあのような大貴族を無礼討ちにすることなどできなかったようで、私は内心ほっとしていた。  

 だが、場に居合わせたものの話によると、ろくに反論もできず言いくるめられ……腹立たしい気持ちは日に日に募っているようだ。