「そうなんでさ……いや、失礼。驚かせたならすみません……ちょいと戦地に(おもむ)く前に御利益をさずかりたく思いましてね」
「戦があるのですか?」

 ぎょっと目を見張ったリュミエールに、男は頬を掻いて答える。

「お嬢さん方には似合わない血なまぐさい話ですがね。今はまだ小競り合い程度のもんですが、北の国境と接した大国は何かあれば真っ先に突っ込んできやす。いつ本格的な戦になってもおかしくはねえんだ……。だからこうやって思い残すことの無いよう、しっかりかみさんと娘の事を神様にお願いして行くようにしとるんですわ」
「そうだったの……私、そんなこと全然知らなかったわ」

 フィースバークの領地は比較的国の中心に近い場所にあり、リーベルト王国が平和なこともあってか、リュミエールはそんな話を耳に挟むことも無く育ったのだ。

 知らないところで自分達のために戦ってくれている人達がいる……。
 リュミエールは自然と敬意を抱き、男に手を差し出して挨拶する。

「あの、私この度こちらの公爵様と婚約させていただいた、フィースバーク侯爵家のリュミエールと言います。ええと、あなた、お名前は?」
「ハンスです」