興味津々と言ったていでレクシオールの後ろから覗き込んで来るフレデリク。
 そして、公爵も大きくうなずく。

「そうだな、他の貴族との交流のきっかけにもなるやも知れん。一度練習で弾いてみるといい。……どうした?」
「は、はい……では、少々お待ちくださいませ」

 リュミエールは突然の出来事に頭が回らず、おろおろと視線を動かしケイティに助けを求め……そんな彼女を元気づけるように、笑顔の世話係はパンと手を打ち鳴らす。

「ならば御嬢様、『湖畔の恋歌』などいかがでございましょう?」
「そ、そうね! そうしましょう……」

 ケイティが指示した曲も、幾度となく練習した曲の一つであるのだが……目の前で公爵がご覧になっているかと思うと指が震える。

(でも、私あの時のお礼をまだ、何もしていないのだわ。ならば少しでもこの場でレクシオール様を楽しませて差し上げたい……)

 ささやかな願いを込め、リュミエールは彼の姿を目に焼きつけて瞳を閉じた。ケイティの伴奏がゆったりとはじまるのに合わせて、弓と指の動きだけに集中する。頭の中に優しい顔立ちの聖女と寄り添う銀の竜の姿を浮かべながら……。