不正業者の脱税やら、犯罪集団の摘発などの報告であっても片眉一つ動かさず受け付ける彼が、こんな激しい皺を額に刻む姿は最近では見たことが無く、それが一人の少女のせいだということがなおさら僕にはおかしかった。

 腹がよじれそうになって思わず背中を向ける僕に彼は気づかず、独り言をつぶやく。

「なんだ……人前で堂々と振る舞えるように、自信をつけさせねばならんのか? 女の自信とは……女とはなんだ? わからん……。今度図書室にでも行って調べて見なければ……。いやまずは……あのように線が細いから、もっと太らせねばならん……健康的な食事……か?」

 真面目に没頭し出すレクシオールの姿がおかしくて、もう僕はその場にいられなくなった。

「くく……済まない。ちょっと腹が痛くてね。今日は……失礼す、るッ」
「……ああ、また話を聞いてくれると助かる」

 僕はこめかみにぎゅっと力を入れて強引に笑みを作ると、早々に彼の部屋を退出する。

(これはきっと、絶対面白いことになるぞ……!)

 そして部屋前の通路を曲がった先で耐えきれず崩れ落ち、床をドンドンと叩きながら、しばらく人目もはばからず爆笑した……。