御者の男とは別に、迎えの馬車の内には一人の同行者がいた。

 茶色の栗毛を緩くカールさせた、柔和な表情の眼鏡をかけた美男子。
 深い森の奥のような濃緑の瞳が印象的だ。

 セルバンとの別れを黙って待っていてくれた彼は、リュミエールとケイティの挨拶に陽気な笑顔で答えてくれた。
 
「お初にお目にかかります、フィースバーク侯爵令嬢とお付きの方。私、ハーケンブルグ公爵の配下で、友人を自称しております……フレデリク・ハイネガー伯爵と申します。公爵は御多忙に着き、私が彼に代わり道中の案内を仰せつかりました。どうぞよしなに」 

 彼は揺れる馬車内で簡単に手の甲へ唇を触れさせる挨拶をしたが、手慣れた様子でいやらしさは感じられなかった。それでも、こんな風に男性から扱われたことがほとんどないリュミエールは、思わず赤くなってしまう。