今まで自分の意向に沿わない家人を幾人も城の外に放りだし路頭に迷わせ、美酒や美食に舌鼓を打ち遊び惚けるだけで、(まつりごと)の事などこれっぽっちも考えちゃいない……あいつは、権力を自分の欲の為に使うことしか考えていないんだぞ。

 今まで僕がどれだけあいつの不祥事を内々で収める為に利用され、奔走(ほんそう)してきたか……だというのに。

(僕にあんな奴のおもりを一生しろっていうのか……いい加減にしろっ!)

 この瞬間、僕の覚悟は決まった。
 兄を断罪し……王座をこの手でつかみ取る。

「……わかりました。ですが、かの令嬢はもうハーケンブルグ公爵の元に嫁ぐことに先日決まってしまったようです……。それを覆そうとするのであれば、しばしお時間を頂かなければなりません」
「おお、やっとその気になってくれたか! では兄とこの国をよろしく頼むぞ」
「私に全てお任せください。御心のままに……」

 僕は表面上は穏やかな笑顔を取り繕いつつ、煮え(たぎ)る溶岩のような気持ちを押し込めてその場を辞する……。もちろん、国王の言葉に従うつもりなど毛頭なかった。