「……あの、少しご休憩されてはと思って、作って来ました。良かったら少しだけお茶にしませんか?」

 彼女が箱を開けると……。

 そこに入っていたのは切り分けられたアップルパイだった。
 全体的に整ってはいるが、どこか(いびつ)なその形からは、苦労の跡がうかがえる。

「ふふ、御嬢様ったら……料理長に手伝って貰ったのですけど、形が気に入らないからって何度も何度も作り直して。おかげで私も城の皆さんもお腹が一杯になってしまいましたよ」
「ああ、もう……言わないでっていったのに! きゃっ!」

 細い腹をさすりながらにやにやするケイティに、レクシオールはムッとした顔で箱を取り上げ……赤くなったリュミエールの肩を抱いたままどっかりと応接用のソファに沈み込む。

「食わないわけないだろう。別にお前が作ってくれたなら、俺は焦げていようが潰れていようが一向に構わなかったのに……」
「でも、こんなに頑張ったのはあなたの為ですから……」

 リュミエールがいつかの約束を律儀に覚えていてくれた嬉しさより、皆が先に味わってしまった悔しさの方が勝ったのか……レクシオールは不満そうだ。