ロディアに元フィースバーク領での出来事を教えると、彼女はいたく感激し、後日アリエステルの眠る石碑に祈りを捧げにいったようだ。教会にはその時以来、マリーゴールドがよく飾られるようになった。

 小公爵はあの日以来リュミエールの頭の中に言葉を伝えて来ることは無い。
 しかし相変わらずその泰然とした態度と美しい銀色の毛並みは、城内の人々の心を癒している。領主が仕事に励んでいるか、執務室をふらりと視察しにくるのもやめてはいないようだ。

 新たに即位した新国王ロベルトは宰相ルビディルを始め臣下の信任も厚く……即位後も大きな問題は起きていない。唯一の問題は未だに独り身であることだが……それはまた時が解決してゆくのだろう。

 そういえばパメラはなんと、ロベルトの推薦で公爵家から王城お抱えの侍女として働くことに決まった。本人は最初は渋っていたのだが、レクシオールの勧めもあり結局は承諾して、今は新たな経験を積もうとやる気を見せている。しっかりした彼女であればきっと、場所を移しても立派にやっていくのだろう。

 ……忙しいそんな日々はあっという間に過ぎて行き、そしてこの日が訪れた。

 リュミエールは今日が一生に残るほど大事な日になることを確信している。

 感慨にふけるそばでは、ケイティがそわそわと手を擦り合わせていた。
 ある意味彼女にとっても今日は晴れ舞台なのだ。上がってしまうのも無理はないのだが……。