「お父上……! お父上はいらっしゃいますか!?」

 大声で呼ぶと、玉座に座っていたリーベルト王国国王――フィーゼル・リーベルトは黒い髭を()でつつ顔を上げる……。

 声を張り上げた勢いのまま謁見の間の奥に進み、怒りに燃える瞳で国王である父を睨みつけた僕の名は、ロベルト・リーベルト――この国の第二王子だ。

 今回こうして、実の息子であれど国王に対して無礼とも言える行動を起こしたのには訳がある。

 兄である第一王子カシウスが起こした婚約破棄騒動をこの父親が黙って見逃したためだ。

「なぜ兄上の、あのような無体な要求を通したのです!」
「……落ち着きなさい。結婚相手が三女から長女に変わっただけだ……さほどおかしなことではなかろう」
「ですが、あれではあまりにもリュミエール侯爵令嬢が憐れにございましょう! 父上は兄上に甘すぎます!」

 いつもそうなのだ……国王陛下は、第一王妃であるマリアを寵愛しており、彼女が生んだカシウスを特に可愛がっている。そして、僕や下の兄弟にはほとんど興味を示さない。