ハーケンブルグ公爵の治める土地はここより随分遠いと聞く。その機会が本当にあるかどうかは分からなかったけれど、リュミエールはそれを願い、セルバンも笑顔で頷く。

 そうしてリュミエールは馬車に乗り込み、フィースバーグ侯爵領を後にする。
 馬車の窓から顔を出し、こちらに向かって手を振るセルバンの手には、先程あげたカフスボタンが陽の光を反射してきらきらと輝いている。

 それが小さくなって見えなくなるまで、リュミエールは窓から顔を出していた。
 もし彼が本当の父親だったならば……どれほど良かっただろう。

 そんなことを思うと涙が一粒、風に流れてどこかへと消えていった。