丸く開いた口を閉じて慌てて膝をつき、なんとかそれだけ言いおえたリュミエールが混乱したのも無理はなかった。

 髪色こそ違えど、一瞬見せたその柔らかい笑顔は公爵家の屋敷に度々訪れていたレクシオールの友人フレデリクのものに間違いなかったのだから……。

 ――かくして、リーベルト王国はこれ以降、第一王子カシウスに変わる王太子として第二王子ロベルトを置き、以後彼を国王として戴く新たな体勢へとゆっくりと移り変わっていく。


 一方、後日リュミエールはレクシオールからこんな悲しい話を聞いた……。

 ――ゾリッ、ゾリッ……パサパサッ。

『や、やめろ! 何をする……私はこの国の王太子なるぞ……金にも等しい価値のあるその髪を、剃るなど! うぁっ、止めろ……イヤだぁぁぁぁぁっ!!』

 第一王子は投獄後、国王と共に僧院に送られた。優雅で贅沢な暮らしを忘れられぬ王太子は剃髪されて憤慨の余り気が触れ、廃人となってしまったらしく……そして一生そこから出る事のないまま、王族の華々しさなどとは無縁の密やかな最期を遂げたということだった……。