セルバンは早くに妻を失くしてしまい、それ以来ずっと独り身だった。この穏やかな老紳士が少しでも長く楽しく生きてくれることを見届けたかったけれど、それはもう叶わない。

 彼は早速その贈り物を袖に着けると、明るい笑みを浮かべ、手を拡げた。
 リュミエールはその胸に飛び込み、親代わりの老人と、最後の抱擁(ほうよう)を交わす。

 ……しばしそうした後、馬の足が遠くからかけてくる音を聞き付け、どちらからともなく体を離した。

「では御嬢様、お元気で。辛うことも一杯ございましたから、信心深き御嬢様のこと、きっと神様はこれから大きな幸せを与えて下さるでしょう。このセルバンめが保証させていただきます。ですから胸を張って旅立たれませ」
「ええ、そうするわ。名残惜しいけれど……もう行かなければ。またお手紙を書くわね……」
「ええ、私も何かあればケイティ宛に送らせていただきます。ケイティよ、御嬢様の事をしっかりお守りしてさしあげておくれ」
「ええ、セルバン様ご心配なく。私も女とはいえ貴族の出でありますから。存外剣の腕も捨てたものではありませんのよ。不埒者(ふらちもの)が近づくようであれば体に叩きこんでやりますとも!」

 ケイティが胸をドンと叩き、リュミエールとセルバンはその仕草に微笑む。

「ふふ、頼もしいわね……ではセルバン。いつかまた……」
「ええ……いつの日か。お会いできることを楽しみに」