カシウスは手を伸ばして彼女を懸命に引き留めようとするが、着慣れない重い鎧は足かせとなり、盛大に地面に倒れ込む。

 ……その姿を馬に跨り見下ろしたロベルトから冷たい言葉が降りかかった。

「兄上、いい加減見苦しゅうございますよ。この騒ぎは国王陛下のお耳にも入れざるを得ないでしょう。首謀者がどこの誰であるのか判明するのが楽しみでございますな」

 だが、カシウスはレクシオールに背中を抱かれ馬車に乗り込むリュミエールの方しか見てはおらず……ロベルトは首を振ると、馬の尻に鞭をくれ駆け去ってゆく。

「……待ってくれよ、リュミエール。も、もうお前だけしか私には居ないんだ! リュミエール! リュミエール――!!」

 彼女は一度も振り返ることなく馬車は閉じられて動き出し……そしてその場には、地面に惨めにうずくまる王太子の姿だけが残された……。