当日、使いの馬車がフィースバークの屋敷まで迎えに来る頃……リュミエールは老執事セルバンとの別れを惜しんでいた。

 身の回りの世話をしてくれるケイティは、向こう側がついてくることをお許しになった為、そのまま一緒に公爵家の城へと移ることになる。

 リュミエールは彼女に、実家に一旦戻ってはどうかと問いかけたのだが、頑として付いて来ると聞かず……その気持ちは心細いリュミエールにとって唯一の救いとなった。

「御嬢様のお顔が見れなくなり私はさびしゅうございます……どうか、お(すこ)やかにお過ごし下され」
「私もあなたの顔が見れなくなるのはとても残念だわ。今までよくしてくれて、感謝の言葉も無いけれど……良かったらこれを受け取ってもらえないかしら」

 リュミエールがセルバンに渡したのは、彼女の瞳と似た色をした黄玉(トパーズ)のカフスボタン。街から出る数少ない機会を利用して、ケイティと一緒に選んだものだ。

「年は離れているけれど、あなたの事はケイティ同様、家族だと思わせてもらっていたわ。今まで私を育ててくれてありがとう」
「もったいなきお言葉にございます……私もあなたがこうして大きく育っていかれるのを毎日楽しみにさせていただいておりました。こんな老人の人生に彩りを添えていただき、感謝いたします。向こうで妻に自慢させていただきますよ」