もちろんロベルトは意にも介さず、捕らえた賊達を馬車に詰め込んで行く。彼の方もまるでこの事態を予測していたように。

「おい、この兄の言うことが聞けぬというのか!」
「おかしなことを仰らないで頂きたい。大体、兄上にも私にも軍の指揮権はありません。こちらの軍を指揮しているのは我が王国軍の、マルコス第一軍団長ですよ? たまたまこの付近で軍事演習を行っていて、私は後学の為にそれに参加させていただいていただけです。その途中、どうも怪しげな動きを見せる者達を見つけ追跡して来たら、このようなことになっておりましてね。ところでそちらのその男達はどこから連れて来られたのです? 指揮官は?」

 ロベルトが手を挙げ、後ろから厳めしい髭面の男が歩いて来て、王太子が率いて来た部隊の者達は誰もが目を逸らした。あからさまに背中を向ける者もいるほどである。

「ぐ、むぅ……こ、こ奴らは、私の求めに応じて集まった貴族の子弟達で、た、たまたまこの付近で……鹿! そう鹿狩りをしに来ていたのだ! 指揮官などいない! おかしい所など何もないぞ?」
「その甲冑で鹿狩りをですか? 馬も疲れましょう……ふ」
「か、構わんだろう別に! き、貴族たるものいつどこで襲われるか分からんからな! 警戒にこしたことは無いのだ!」

 意地悪く笑う第二王子に王太子は顔を赤くして反論するが、それが誤魔化しであることは誰の目にも明らかだ……。