その後、銀竜公爵の手により隣室に待機していた老執事セルバンの元へと届けられると、そのままリュミエールは屋敷へと返され……しばらくは一日中ベッドで寝込み、部屋から出ない日々を過ごした……。

 ――そして数日経ったある朝、リュミエールは父であるフィースバーク侯爵オルゲナフの執務室に呼び出しを受ける。

 部屋に入ると、中央の古びた机の前に座る父と、傍に控えた継母の姿があった……。

「……失礼いたします」
「遅いぞ、ぐずめ」

 オルゲナフは焦げ茶色の髪を()でつけると、身体をちぢこませるようにして入室したリュミエールを冷たい視線でにらみつけ、憎々しげに毒づく。

「全く……お前がしっかりしないせいで、聖女が婚約を破棄されるなどという前代未聞の汚点を私の代で負うことになってしまったではないか」
「申し訳ありません……」
「フン……さいわい姉のサンドラを気に入っていただいたおかげで、陛下や王太子殿下のご不興を買うことは大してなかったが……。できた姉に感謝するのだな」
「やはり、血は争えないものね。家格の低い娘の子供など、やはりこの家にいれるべきではなかったのよ、あなた」
(父上も、母上ももしかしたらこの事を知っていて……?)