オルゲナフはテーブルに置かれた青いポットを指さし、なだめようとした夫人を振り払った。
 そして何もできずその場に立ち尽くしていたサンドラがハッと口元を隠すのを見て、襟首をつかみ上げる!

「落ち着いていられるか! サンドラ、お前か!? なぜ勝手なことをした……それはリュミエールに飲ませる手はずで! お前のせいでェェェッ!」
「何を言ってますの、お父様!? わ、私、なにも、なにも知りませんわ!! どうしてそんな怖ろしいことを!? 離して……!」
「や、止めて、お父様、お姉さま!!」
「うるさいぃッ!」

 たちまちの内にその場が混乱に陥り、オルゲナフとサンドラがつかみ合いになった……。
 止めようとしたリーシアも突き飛ばされて転がり、侯爵夫人と一緒に震えあがる。

(な、なんてことになってしまったのかしら……)

 リュミエールは実の家族同士の凄惨な争いを耳にしながら、膝の上で震える王太子に毒入り紅茶を吐かせ、背中をさすった。

 わずかに顔色が戻った王太子からうわごとと共に伸ばされた手を、せめてもの気付けになればと優しくにぎる。

「た、助け、て……」
「大丈夫です……! すぐにお水が来ますので、もう少し頑張って……きっと良くなりますから!」

 もはや、茶会の場は一転して王族毒殺未遂事件の現場と変わり果て……その後事態が収拾するまでには日をまたぎ、かなりの時間を要することになった。