(あれは……公爵様達にお出しするはずの物だったのに。……ま、いいか)

 今から追って取り返すべきかと迷ったが、料理長はそのまま作業に戻る。

 続々と家人たちが解雇されてゆくのを見て、……彼ももうこの侯爵家はお終いだと分かっていた。

 元より待遇はさして良くはなかったのだ……これ以上義理を尽くす必要はあるまいと彼はそのままそれを正すことなく、せいせいしながらタルトを皿に盛りつけていく。

 こうして、様々な思惑が重なり合い……茶会の方向が意外な所へ導かれようとしていることを、この時はまだ誰も知る由はなかった。