リュミエールは熱くなりすぎて、もう背中を支える腕と、自分自身の境界線が分からなくなっていた。心臓がいつもの数倍の速さで脈打ち……狭くなった視界には、彼の顔しか見えない。

 それでもレクシオールが自分のことを本当に想ってくれていることは、真剣なその表情から伝わって来て……それを受け入れたいという気持ちが自分の中にちゃんとあるのもわかっていた。

「……はい、どうぞ」
「ああ……」

 だから、彼女は小さくうなずき目を閉じ、彼に自分を委ねた……。
 ゆっくりと暖かいものが唇に触れ、しばらくそうした後、離れる。

 目を開けたリュミエールの目に映るのは、夕陽に照らされきらきらと輝く銀糸の髪と、あの蒼玉(サファイア)色の瞳。そして彼は、もう一度優しくリュミエールを抱きしめた。

「ずっと、一緒にいてくれ……」
「……はい」

 そんな二人の様子を、大勢の民衆達は息を呑むように静かに見守っていた。お互いを求めあう若き銀竜公爵と聖女の姿はあまりにも美しく、まるで舞台の一幕の様に彼らの心を打った。

 そしてその日、街では人望ある若き公爵と聖女の婚約に至る所で祝賀の宴が催され、大いににぎわったのだという……。