そう言うと彼は、そっとリュミエールを抱きしめる。
 周りには多くの人がいたが、もう今はそんなに気にならず……リュミエールもそのまま彼の背に腕を回す。

「お前といると、素直になれるんだ。公爵家の責任とか、プライドとか、そんな重苦しい荷物が全て溶けていくような気がして……俺は俺のままでいられる。お前はどうだ? 俺のことを……どう思っている?」

 その瞳には、いつもの公爵然とした硬質な光ではなく、不安と期待に揺らぐ一人の人間としての愁いが宿っていた。

「私は……最初はあなたの事が怖かったんです。完璧なあなたには私なんて不釣り合いで、きっとすぐに必要ないってまた、あの家に帰されると思ったから……でも」

 リュミエールも本心を隠すこと無くさらけ出し、包み込むような笑みで彼に笑いかける。

「でも……今はそんな気持ち、どこかへ行ってしまいました。あなたが失うことに苦しんで、誰かに優しい顔を向けられなくなった事を知ったから。だから私は……あなたが必要としてくれるなら、あなたのそばでずっと一緒にいます。あなたの隣が……いいんです」

 レクシオールはふぅと息を吐いた。たったあれだけのことを私に伝える為に、冷血公爵と呼ばれたこの人が緊張していたのだと思うと、リュミエールはそれだけでもう、お腹も胸も一杯になる。