「リュミエール様、お早うございます」
「御嬢様……おはようございますぅ」
「ええ、二人ともおはよう」

 そしてケイティは鏡台の前に座るリュミエールの傍にぬるま湯の入ったボウルを置くと、彼女をそっと抱きしめ、呟いた。

「御嬢様、私とラーセル家に逃亡しませんか……!?」
「ええっ!? ど、どうしたのケイティ?」
「何を言ってるのよ! どこにお仕えする御嬢様を連れて実家に引き込ろうとする侍女がいますか!」

 スパァンとパメラが平手でケイティの頭をはたき、その襟首をつかんでぐっと引き剥がすと、彼女は胸の前で両手を握り強烈に抗弁する。

「パ、パメラにはわからないんですよ! リュミエール様はこ~んな小さい頃から私がお育てして来たんですよ!? それを公爵様とはいえ出会って数か月の男の人に……全てをお任せするなんて。うぅ。ケイティはまことに胸が引き裂かれる思いにございますっ……」
(このこじらせ侍女は……)
 
 パメラは舌打ちせんばかりの表情になって冷たく見据え、ケイティの肩を揺する。