気づけば、少女は竜に声をかけていた。

「どうして、そんな悲しそうな顔を、しているの……?」

 竜は、視線を遠くに向けたまま呟く。

「私は……最も大切な人を、目の前で失ってしまったのだ……」

 雄竜であろう彼が人の言葉で返事をしたことにも驚いたけれど……なによりもその深く沈んだ声音がとても切なく、胸が締め付けられるような感情を覚えて、少女はうつむいた。

 すると、竜は彼女にいたわるような視線を向ける。

「……人の子よ、あなたまで悲しむことは無い。あれからもう数百年もの長い月日が経ってしまった。もう少しでこの身も()ち、神の御許(みもと)へ向かうことができるだろう。その時には、もう彼女はその場所にいないのかも知れないが……」

 ――きっとこの竜は、私達が生まれてから死ぬまでを何度も繰り返すほどの長い間、ずっとその人を思い続けて来たのだろう……。

 そんなことを思うと、少女の胸はとても悲しい気持ちで満たされ……我知らず彼女はその竜に願い出ていた。

「……私に何か、できることはありませんか?」

 美しい竜を少しでも元気づけたい彼女は、顔の隣に座り込むと鱗を()でる。