「ぶふっ……げほごほっ!」
「何だ、急に騒がしくして……先程から様子がおかしいぞ」
「い、いえ……ちょっと緊張して咳き込んでしまっただけです! ごほん……も、もう大丈夫ですから!」
「……そうか」

 あまりのシュールさに吹き出した彼女は、訝しむレクシオールを無理やり取りなすと、小公爵をもう一度膝の上に持ち上げ、頭の中で語りかけた。

(もしかして、私が考えていることがあなたには伝わっているのですか?)
(……そういうことのようだ。私にも詳しいことは分からないが、聖女の血筋が関係しているのかも知れぬ。しかし、よくあやつをここまで引っ張って来てくれた……礼を言おう)
(もしかして……あなたはお亡くなりになったはずのレクシオール様のお父上なのでは?)

 その深い響きを持つ声はレクシオールのものとよく似ており……リュミエールは、小公爵をあやすふりをしながら彼の言葉が帰って来るのを待つ。

(……ああ、その通りだ。私はそこにいるレクシオールの父、前ハーケンブルグ公爵コーウェンだ)
(…………そう、なのですか)