そこまで語り終えて、レクシオールは虚ろな瞳で父母の墓石を見つめる。

「――母と、父が死んでから俺は一度もこの墓に訪れるどころか、頭の隅にも浮かべなかった。二人の死を受け止められる気がしなかったから、無意識に拒絶していたんだろう。あの時、自分がどうすべきだったのか、今もまだその時のことが俺の中で整理できていないんだ……」

 深い溜息を放ちレクシオールは空を仰ぐ。
 表情は伺い知れなかったが、苦悩と後悔に塗れた声を出す彼に、リュミエールは掛ける言葉を見つけることができない。

(一番大事な物を失ったこの人に……私なんかが、何をできるんだろう)

 さっと風が木立を揺らし、振り返った小公爵が足音も無く近づいてくる。
 彼はリュミエールの膝に乗ると、意志の宿る瞳でしっかりと見つめて来た。

(あなたは、ここに彼を連れて来て……どうしたかったの……? 教えて……?)

 リュミエールが祈るような気持ちでそれを眺め続けていると、かすかに何かが耳の奥で聴こえたような気がした。

(……リュ……ル――)
(えっ!?)

 突然響いた声に彼女は左右を見回したが、二人の他に人の気配など他になく……風の音と聞き間違えたのかとも思うが、木の葉すら揺れていない。

 ではここにいるのはもう、この一匹しかない。
 そして小公爵が、リュミエールの腕を前足で叩く。

(リュミエールよ……目の前のそれだ。膝に乗っているがその猫が、今話しかけている私だ――)