――それから数日、抜け殻の様になっていた俺は父の元に伺い、仕事の手伝いを始めた。

 大分痩せた父は以前の面影も無く、疲れた顔をしていたが……息子だとて加減はせず、仕事を厳しく叩きこんでくれる。それが……何もかも忘れてしまいたいと願う今の俺には、丁度心地よかった。

 こうして何も考えずに過ごせば……その内……。
 そこから先を考えないように必死に目を逸らし続ける……そうしていなければ耐えていられない。

 しかし、逃れられないその時は唐突に訪れる。
 父から仕事を教わる最中、慌ただしい音を立て、兵士が一人執務室に駆けこんで来た。

『失礼いたしますッ!』
『なんだ騒がしい……火急の用事か?』
『そ、それが……。……いいのですか?』
『……構わん。伝えてくれ……』

 兵士の態度で俺にも何を言おうとしてるかが伝わって来て、思わず俺の手は震え、そして彼は青い顔で告げる。

『奥方様が、逝去なされました――』

 父の手の中から紙束が滑り落ちて、床を白く染めた。