俺は城壁への階段を一気に駆けあがると、隅の方で腹の中の思いの丈をぶちまける。見張りの兵士がぎょっとして彼を見つめたが、どうでも良かった。

 ただただ悲しくて、悔しくてやりきれない。

 ……背も体も大きくなり、同年代の少年達から羨ましく思われるような成績を修めようと、一番大切な物がこの手には残らないのだ。

『――強くなりなさい』

 母の言葉がずっと耳にこびりついて離れない。

(急がなければ……母様の望みを、叶えるんだ)

 誰にも負けない評価を手に入れる……母がいなくなる前に俺がしてあげられる事は――もうそれだけしか残されていない……。



 ――その頃から俺は母に会いに行くことを止めた。

 勉学や武芸の鍛錬に明け暮れ、中等部の貴族学校を卒業後は生家を離れて王都にある宮廷学校への進学を選んだ。

 数日に一度は必ず手紙を送る……自分が立派になって戻るまでに、少しでも体が良くなってくれることを願いながら。