『ですがではありません。公爵家の男子たるもの、体だけではなく、心も強くあらねば。城のものや領内のもの、多くの生活をこれから支えてゆかなければならないのですから。こんな女の死一つで心を乱していては、到底つとまりませんよ?』
『…………』
『強くなって、レックス。母を安心させてちょうだい……私がここからいなくなるその時までに……』
『――失礼しますッ!』

 俺は乱暴にドアを閉め、病室から逃げ出すように走りだす。

 認めたくはなかった。母が長くないこと……それを受け止める準備をしていかなければならないことを。そんな簡単に割り切れる訳もない。たった一人の母親なのだ……。

 生きていて欲しい……せめて自分が成人し、父の後を継いで立派に皆を守って行ける事を見せて、安らかな気持ちで眠って欲しい。

 なのに、どんな名医も母の病の進行をわずかに遅らせることしかできず、死は着々と近づいている。

『――うわぁぁぁぁぁ!! ああっ、ちく……しょう、どうして誰も、母様を救ってくれないんだ……!!』