◆(レクシオール回想)
 
『……レックス、あまりここに来てはいけないと言っているでしょう。こほ……、こほ』
『母様……今日俺は、貴族学校の剣術大会で優勝したんですよ! ……褒めては下さらないのですか』

 十三歳位の頃だっただろうか。
 俺は領内の貴族子弟が集う学校にて行われた剣術の大会で、優勝したことを母に祝ってもらおうと父の言いつけを破って病室を訪れた。

 母は、永く病を患っている。
 熱が人並より低くなり、体力がどんどん落ちて行ってしまう病気で、寝たきりの状態がもう数年も続いていた。

 元々体が弱い人ではあったが……こちらの寒い気候も相俟(あいま)って、病魔はより彼女の体を蝕んでいる。

 母の生家は国の南方の比較的温暖な地域だ。俺も父も何度もそちらに移って静養するよう勧めたのだが、一向に聞きいれてくれる様子が無い。

『それはようございました……きっと、あなたもゆくゆくは御父様のように立派な公爵位を継ぎ、この領地をまとめてゆくのでしょう。さあ、うつるといけませんから、長居してはいけませんよ』