その言葉に首をかしげたリュミエールにも、しばらくすると一つの墓石の前に座り込む小公爵の背中が見えた。

 比較的新しい……しかしあまり頻繁に訪れるものはいないのか、手入れはされていない様子のその墓には、名前と生年がしっかりと刻まれている。

(レジーナ・ハーケンブルグ様と、コーウェン・ハーケンブルグ様……どちらも亡くなられたのは、五年前……まさか)
「……俺の母と、父だ」
(…………!) 

 リュミエールは言葉を失いうろたえた。
 彼が両親を早くに亡くしていることはフレデリクなどからも伝えられている。だがそれでも(じか)に聞くと……どう接したらいいのか分からない。

「……慰めはいらない。だが、婚約者だというのなら……知っておいてもらった方がいいのかも知れん」

 レクシオールは白い顔のまま近くの木の元へリュミエールを招き、汚れないように足元にハンカチをしいて彼女を座らせると、自分は幹にもたれ掛かって目を閉じる。

「あの……」
「少しだけ付き合ってくれ……」

 そして彼はゆっくりと語り出した……。