そんな覚悟でじっと見つめていると、彼は仕方なく首を縦に振った。

「今回だけだ……それでいいな」
「はい……では行きましょう」

 リュミエールは彼の肘に腕を絡めて体を寄せ歩き始める……少し恥ずかしいが、こうして近くにいれば、わずかなりとも彼の気持ちが理解できるかもしれない。

「手を離さないか……」
「練習だと思って下さい……好きだと思っていなくても、外ではそう振る舞わないといけないのでしょうから」

 彼はそれ以上文句を言わず、リュミエールに引きずられるように足を踏み出す。

 行く当てはないが、ずっとこちらを見ている小公爵の瞳に何かを感じ、リュミエールは一度だけ自分の感覚を信じてみようと……彼についてゆくことを決心する。

 そうして前方では、小公爵が待っていたかのように身をひるがえし……こうして二人と一匹の不思議な道行きが始まった。