彼が真っ直ぐに進んで来たので、きっとこの場を収めて下さるのだとリュミエールは期待した……なのに――。

 驚くことに王太子カシウスは一人の女性の手をにぎっていた。
 しかも、愛情深く絡ませるようなつなぎ方で……。

 リュミエールの呆然とした瞳を見たカシウスは、一度目を逸らした後クッと彼女を(にら)みつけ、大袈裟な身振りで話し出す。

 その内容は思ってもいないもので、彼女の頭から先程の悲しい気持ちすら忘れさせ、真っ白にしてしまう。

 何しろ、彼はこんな事を言ったのだ……。

「――この場にお集まりになって頂いた皆様に感謝を申し上げますと共に、お伝えしたきことがございます! この度、私はあの白い髪の令嬢、リュミエール・フィースバークとの婚約を取り下げ、この……サンドラ・フィースバークと契りを交わすことを公言させていただきます!」

 そしてサンドラ……一番上の姉は、リュミエールを一目チラリと見て、とても楽しそうに口の端を吊り上げたのだった。