たまに話しかけると、そっぽは向いたままだが無視せずにちゃんと答えてくれる。

「レクシオール様は、どんなお食事がお好きなのですか?」
「……好き嫌いなど無い。強い体を作るには、まんべんなく栄養を取らねばならんしな。うちの料理人は優秀だ……彼らに任せていればどんな食材だろうが食えるようにしてくれる。何か問題でもあるか?」

「……もし良ければ、お仕事中に軽食の類でも持ち寄らせていただきたいのです。どうせならお好きな物の方が元気が出るかと……」
「お前は侯爵家の娘だろう。そんな事をする必要はない」
「でも……私はレクシオール様の為に何かしたいです。お詫びと感謝の気持ちを込めて精一杯作りますので、食べたいものがあれば教えていただけませんか?」
 
 リュミエールの言葉にレクシオールは体を揺すると、小さな声で言った。

「……アップルパイ」
「……! アップルパイですね! 今度必ずお持ちいたします! し、失礼しました……」

 教えてくれたのが嬉しくて、ついはしゃいでしまったリュミエールは口を押さえたが……レクシオールは怒らずに穏やかな口ぶりで言葉を返してくれた。