これはもちろん好意から出た行動ではない。彼女はよく、リュミエールが大勢の人間が苦手なことを知っていてわざと人目に(さら)し、笑いものにしようとするのだ。

「ね、姉様……お待ちください。わ、私は……」
「うるさいわねぇ。役立たずの妹が姉の言うことに逆らうんじゃないわ。ほら、行きなさい!」

 彼女は人の輪の中にドンとリュミエールを突き出す。

「あっ……」

 リュミエールはドレスの(すそ)を足に絡ませ、前へとひざを突く。

「どんくさい《偽聖女(にせせいじょ)》だな。おっと、失礼」

 誰かが言った言葉と周囲の冷めた笑いが胸にささるが、こんな所で涙を流しては王太子様にご迷惑がかかってしまうと、リュミエールは立ち上がり必死に顔を上げる。

 しかし一人として目を合わせてくれる者はおらず……ざわざわと取り囲んでひそひそと笑うばかりだ。

 そして騒ぎを聞きつけたのか、話を中断した王太子がこちらにやってくる……。