私の驚いた様子を、彼は口元に指を立てて諫める。

「他言はするなよ……銀の竜の加護を受けているからだと本人から聞いたことがあるんだ。王太子がどんな毒を仕入れるつもりかは知らないが、それで倒れることはないだろう」
「しかし、婚約者の御令嬢が危険なのでは」
「彼ならばあの娘を危険に晒すような真似はすまい。一報でも入れておけば、先に毒見をするなり上手く対処するはずだ」

「では今回は静観するという事で良いのですか?」
「ああ、その間にさらに奴を追い詰めるよう段取りを進めておく。悪事の証拠はあればあるほどいいだろうからな。後は父上を説得できるかどうかだが……そこまで愚かではないと願いたいな」

「取りあえず私はもしもの時の為に、我らの結束をさらに固めておきます。ご安心を……もはや八割方の貴族はこちらに同調し、軍内部にも王太子派はそう多くはありません。命あらばすぐにでも兵を動かせる状態にしてみせます」
「武力制圧は最後の手段だ、できる限り話し合いでことを収めたい。悟られないように立ち回るのは難儀するだろうが……頼むぞ」
「お任せ下され……では」

 そう言って立ち去る私の耳に、ロベルト第二王子の呟きが聴こえてくる。

「全く……兄があんな奴で恥ずかしいよ。済まないが二人ともうまくやってくれ……もうすぐこんな馬鹿なことは終わらせるから」

 自由で楽な立場を手放し、第二王子は国の為にその身を捧げると決めた。……私も誠心誠意彼に尽くそう。この国の新たな夜明けはもう近づいているのだから。